明石・魚の棚をもっと知りたい、楽しく歩いてみたい……情報紙


 今回の特集は魚屋と漁師が語り合う「おさかな座談会」です。読者の皆さんにとっては意外なことかも知れませんが、魚の棚の魚屋と明石の漁師はその相対する立場から、身近な存在でありながら売買以外に関わることがこれまでほとんどありませんでした。だからこそ、本音で話せば何か新たな発見やアイディアがみつかるのでは? そんな思いから、明石浦の漁師さん2人を招いての座談会となりました。

写真上段

戎本裕明さん
海苔養殖、小型底引き網漁(明石浦漁協所属)パワー全開、明石の魚について語り出したら止まらない。明南高校時代に甲子園出場経験あり。



大東利通

鮮魚「魚利」
明石の魚の中でも寿司店や日本料理店などに卸すための、高級魚を扱うことが多い「魚利」の三代目。大東利通



藤井雄一

天ぷら「三ツ星蒲鉾」
座談会余談では蒲鉾の話題にも及んだ。次回は「蒲鉾・天ぷら会議」の実現なるか?
ミニコミ紙「うおんたな」
編集委員長。

写真下段

藤原真吾
鮮魚「かねき」
「かねき」魚の棚店だけでなく、公設卸売市場の仲卸店と、「明石活州」の三カ所で鮮魚を扱う会社の代表。



中谷正男さん

海苔養殖、一本釣り漁
(明石浦漁協所属)
淡々と穏やかな口調の中に意志の強さを感じさせる。AFAR(2Pに詳細あり)の発起人であり、代表。


松谷佳邦

鮮魚「松庄」
某大手スーパー鮮魚部門でのサラリーマン時代を経て、平成2年より家業を継ぐ。
ミニコミ紙「うおんたな」
編集委員長。

明石もんの魚だけで勝負できへんの?
松谷 今日はざっくばらんにお願いします。まず魚屋の現状から。

藤原 数年前と比べて小売りの売り上げはガタガタです。うちは得意先が何軒かあるから何とかもってるけど、お客さんは減ってる。

松谷 まあ確かに魚の棚の現状は厳しいです。原因の一つはライフスタイルの変化が大きいと思う。今は働きに出る女性が多くて、帰りが4時、5時になれば商店街へは来にくい。便宜性を求められると、どうしてもスーパーに流れてしまうという部分があると思う。

戎本 スーパーの魚が売れるんやったら、入り込む隙はあるはずや。子どもを含めて地元の人間に、明石の旨い魚を食べてもらわないかん。旨い魚と旨くない魚、食べ比べて知ってる人やったら旨い魚を選ぶことができる。そうやって大きい流れを作らな。

松谷 魚の棚の魚屋と言っても、すべてが明石もんというわけではなく、もちろん他からも入ってくる。明石もんVS他地域の魚という競争もある。そやけど養殖もんや他地域の魚ばっかり売ってたら魚の棚が魚の棚でなくなってしまう。やっぱり昼網もんを優先的に考えていきたいけども、店によって考えが違うし強制はできへん。

戎本 魚の棚は明石もんだけで勝負するわけにはいかんのやろか。
松谷 (明石もんはいろいろあるけれども)値段もそこそこで安定供給できると言うたら今はメイタ(ガレイ)とイイダコぐらいしかない。現実問題それだけでは商売にならない。

中谷 無いなら無いなりに他所のもんも並べるとして『こっちが明石のもん』いうのを明確にわかるように示してほしい。明石では今これしか獲れてない、とお客さんにはっきり伝えて。ほんなら魚の棚はホンマの明石もんやな、という風になるんちゃうかな。

藤井 たとえば明石のもんと、もうちょっと西で獲れるもん、どう違うんやろか。そこまで明石もんにこだわる意味はあるんやろか?
松谷 確かに明石もんには力があって、手頃な値段やったら売れる。漁師さんは高く売りたいと思うけど、やっぱり値ごろがあるんです。最終的に決めるんはお客さんやから、買うてもらえる値段でなかったらあかん。

漁師と魚屋の垣根をなくしていこう
戎本 これだけ原油が値上がりしたら、漁師にとって魚の値は完全に適正範囲を脱しとる。それでも売れへんのやから、安くなるのは仕方ないとして、わいらが1円泣いたら、自分(魚屋)も1円泣けや、という気持ちがある。漁師と魚屋の間には壁があって、その辺りが見えへんから「あいつらは儲けとる」というひがみが出る。垣根をなくすことが大事やと思う。

松谷 僕らも漁師さんがいかに苦労して獲ってるかはわかってるつもり。漁師さんも商店街の現状を見たら、なんで魚屋があれだけ安く買おうとしているのか、わかるはずや。週末で何とかもってるけど、平日はがらんとした中、朝から晩まで声を張り上げて売らなあかん。獲る側だけやない、売る側も苦労しとる。

戎本 魚の棚歩いてて、閉めた店があったらやっぱりドキッとする。魚屋が閉めたらこっちもやられてまうんやから。

松谷 漁師と魚屋は結局、運命共同体。対立してても前には進まへん。魚屋だけやなく、本来は漁師さんももっと消費者を意識するべきやと思うんです。

バブルな時代のイメージを拭いたい
中谷 (AFAR)でおにぎり屋を始めてから魚の棚にも来るようになったけど、それまでは高い、汚いというような悪い噂をよう聞きよったから、漠然と悪いイメージを持っていた。明石でもそういうイメージ持ってる人は、けっこう多い。実際来てみたらそういうことはないんやけどね。
  
松谷 確かに10年前は僕らもどこか大名商売的な部分があって、それでも潤ってたんです。世代が代わって、これではあかん改善していこう、と取り組んでる。設備投資して店きれいにして、昔はせんかったような料理(さばいて売る)もしてる。例えば太刀魚なんかは刺身用におろしてあげたり。

大東 お客さん相手するのに、昔より何でも難しなりました。ガシラ、いわしでも頭取ったりする。

松谷 サービス面での仕事は増えてるにも関わらず、昔の悪いイメージを引きずられてるのがつらい。言葉使いもそんなに乱雑やないで。

藤井 元気があって威勢が良いのはええと思う。けどそれと言葉が汚いのとは違う。店によってはお客さんがていねいだと感じない態度のところもあって、完全に魚の棚全体が変わりきれてない。

松谷 漁協は魚屋に、魚屋はお客さんに、ある意味「売ってやっとる」的な気持ちが昔はあったと思う。「気に入らんかったら買わんかったらええ」みたいな。今はそういう気持ちは全然ないけど、当時のツケが回ってきとんやと思う。

何があっても魚の棚のスタイルは貫く
戎本 あっちこっちにスーパーができて、一から十まで何でもそろう、車に積んですっと帰れる。そういうのと勝負せなあかん。

松谷 僕らはスーパーのような商売に傾くつもりはない。パックの切り身なんか売り出したら、スーパーの真似になってしまう。どんなにシェアが狭くなっても今の商売を貫く、それであかんかったら規模縮小もやむを得ない。

戎本 そんな後ろ向きやったらあかんやん。例えば魚の棚の真ん中にどーんと何か目玉作って、人寄せたらええねん。

中谷 とにかく人を寄せることに魚の棚が団結してほしいなあ。

戎本 例えば、わいらが海から帰ってきて、船のやつガバーッと持ってきてトラックで横付けして魚を降ろす。「うおんたなに漁師が来るでー!」言うたら、それだけでも人寄せられんことないやん。

松谷 イベントいうのはもちろんええんやけど、一過性のものやし、根本的解決にはならへんな。

勝部 でもお客さんにしたら、漁師さんが魚の棚でそんなパフォーマンスやってたら「魚の棚の魚ってあの漁師さんたちが取ってるんや!」ってすごいインパクト受ける。目の前で見たら魚の棚に対するイメージは変わると思います。

松谷 なるほどそれはそうやな。

戎本 そんな時は利益度外視でもええやん。食べ比べしてもらって当たったらタダとか。そんなんやってもおもろいんちゃうん。

松谷 確かに漁師さんに来てもらってイベントできたら、すごい良い投げかけにはなるな。

漁師と魚の棚でアクションを起こそう
戎本 松谷が「消費者の反応を見ていると…」とよう言うけれども、それはホンマにそうなんか? 勘違いしとうとこないかな、と思ったりする。データや分析も大事やろけど、難しく考えたらあかん。「そんなことできひんやろ!」っていうようなことをポーンとやったほうがええんやで。

藤原 やってみたいとは思うんですけど、商店街だけでのイベントでもなかなか(意見が)まとまらへん。個人商店の集まりやから、スーパーのイベントみたいには行かへんとこがある。

戎本 やっぱり商店街みんなに了解もらわなあかん?ゲリラでイベントやるわけにはいかんの?

松谷 それは無理〜。でも漁師さんが商店街で魚を売るっていうのはいっぺんやってみたいし、できるんちゃうかな。
戎本 漁師でも魚屋でも全員一致して何かやるのは無理や。やる気のあるもんだけでやるしかない。こういう場で何回か話して、信頼関係ができたら絶対実現できる。

松谷 今日の成果として、イベントはぜひ実現したいと思います。漁師さんにはこれからも紙面に登場してもらったり、いろんな形でご協力をよろしくお願いします。

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