明石・魚の棚をもっと知りたい、楽しく歩いてみたい……情報紙


 春の”桜鯛“に対して秋の鯛を明石では”紅葉鯛(もみじだい)“と呼ぶのをご存じですか? 9月から11月にかけて、脂ののった天然の真鯛は1年で最もおいしい時期を迎えます。漁場・鹿ノ瀬の砂地で育つイカナゴなどの小魚をたっぷり食べて育ち、流れの速い明石海峡の潮流に鍛えられた身は締まって、まさに極上。ぜひ皆さんにこのおいしさを知っていただきたい! 今回はそんな紅葉鯛についての特集です。

ある明石鯛の一日
僕は明石鯛。
 生まれは鹿ノ瀬あたりで、仲間と一緒に移動しながら暮らしてきた。人間の年齢で言えば4歳やけど、鯛としては立派な大人やで。人間社会ではエビで鯛を釣るということわざがあるそうやけど、僕の食事はエビだけやない、カニや貝や小魚、いろんなものを食べる美食家なんやで。もちろん毎日海で体を鍛えているわけやから、けっこう筋肉質のナイスバディや。体の表面はきれいな赤で、側面の上の方にはブルーの斑点、目の上にもブルーのアイシャドウが入ってるんやけど、これは甲殻類を食べているせいらしい。自分で言うのもなんやけど、今どきの言葉で言えばビジュアル系やな。
 ところで昨日、僕が食事しようと海の中をぶらぶらしていたら、大きな網の中に入ってしまった。底引き網というやつでどんどん引っ張られ、網目に引っかかって身動きがとれなくなった。仲間と一緒に僕が引き上げられたのは明石浦の漁船。すると漁師さんはすぐに僕のお腹に細い棒を差し込んだ。びっくりしたが、これは僕を元気に岸まで運ぶためだった。深い海の底から急激に引き上げられた僕は、浮袋に穴を開けないと膨らんでうまく泳げないからだ。こうして漁船のいけすに入れられて数時間、明石浦の漁港に着いたのは夜の8時。船が岸に着くとすぐ、漁師さんは網で僕をすくい出し、大急ぎで漁協のいけすに入れた。
朝になって何やら漁協がザワザワと賑やかになってきた。午前11時半から始まるせりに向けて漁師の奥さんたちがいけすの魚を選り分け、準備を始めたらしい。僕もいよいよ一人前の明石鯛として評価される時がきたわけやな。どうせなら高値をつけて買ってほしいもんや、何しろビジュアル系やしバリバリの紅葉鯛や、中身も抜群やからな。僕をせり落としたのは魚の棚の魚屋さんやった。いけすからせり台に上ったと思ったらアッと言う間に値が付けられ、魚屋さんは超特急でトラックのいけすへ僕を運んでいった。それはもうすごいスピードや。魚の棚はピチピチの魚が並ぶ昼網が自慢やから、一分一秒を争って店へと魚を運ぶ。
 たこやえびは生きたまま店頭に並べられるけど、鯛の僕は店でまずきちんとしめられ、神経を抜き、血抜きされる。お客さんに買われた後も鮮度を保ち、よりおいしくなるための作業や。こうして店頭に並んだのは12時半ごろ。通りを歩く人たちが僕をのぞき込んでいく。さあ、一体どんなお客さんが僕を買ってくれるんやろ?
鯛漁船が岸に戻るのはたいてい夕方の6時〜8時半ごろ。岸から漁協のいけすまでは数メートルの近さだが、網に入れて大急ぎで運ぶ。
深い場合で水深140mの海底から引き上げられる鯛は、そのままだと仰向けに浮き、弱ってしまう。すぐに竹の箸を差して浮き袋に穴を空ける。
このストーリーは実話に基づいたフィクションです。

鯛漁の時間・時期
鯛漁(底引網)の流れ
明石鯛の漁法
漁の時間は漁協内の協定があり、鯛の場合は朝4時から6時半の間に出航し、1隻に1人なら13時間、2人なら14時間まで漁を行い、夜6時から8時半の間に戻る、という規定がある。漁の進み具合によって、午前中に穫れたら昼のせりにかけられるよう一度漁港に戻る場合もある。主に4月から12月半ばにかけて鯛漁を行い、冬の時期は海苔の養殖を行うことが多い。 漁港のすぐ前あたりを中心に、明石海峡周辺で船を走らせる。1時間程度、海底で網を引いては引き上げる。深い場合で140mの水深から引き上げられる鯛の浮袋はそのままだとパンパンに膨らんでしまうので、鯛の浮袋に穴を空けていけすに移す。その作業の間にまた網を引きながら船を動かす。これを繰り返して10時間あまり漁を続ける。 明石浦漁協で行われている鯛の漁法は五智網(ごちあみ)、底引網(そこびきあみ)、釣りの3種類ある。釣りは魚に傷がつかず、商品価値が高くなるが穫れる量は少ない。現在釣り漁法の漁師は少なく、五智網が3隻、底引網が4隻。五智網は風呂敷状の網の内側に追い込んでゆく方法、底引網は袋状の網を海底近くまで下ろして船で1時間ほど引く方法。


鯛漁について教えてくれた人

(いのうえとら)井上寅
井上晃良さん
 中学生のころから漁に出ていた井上さんは漁師歴17年。「井上寅」では底引網の鯛漁業を行っています。日焼けした顔がいかにも漁師さんらしいですが、毎日一緒に船に乗るお父さんとともに網を下ろしたり引き上げたり、長時間の昼間の漁は大変な重労働。海底をさらう網がしょっちゅう破れるので、屋根のない甲板の上で修理する作業が一番大変で、特に夏の炎天下はきついそうです。
 でも毎日明石鯛が食べられるなんてちょっとうらやましいですね。「刺身にしたり、焼いたり、煮たり、フライにしたり。例えばこれが肉だったら毎日は食べられないけど、明石鯛だから、おいしいからこそ飽きずに食べられるんでしょう」。春、卵を持つメスは身が痩せて味が落ち、夏の間に栄養をつけて、脂ののった秋に最もおいしくなります。春のオスはメスに比べると味が良く、秋のオスはメスに負けるのだとか。どちらにしても秋の鯛が一番おいしいというのは確かなようです。
 井上さんは前号で紹介した『漁師のこだわりおにぎり』を製造・販売している「AFAR(アファー)」の一員でもあります。「AFAR」は明石浦漁協所属の現役漁師10人で構成するチームで「自分たちで獲った海の幸のおいしさを伝えたい」と活動しています。

NPO法人「ダッシュ明石」が行った味覚実験から
 昨年10月7日、明石市民47人が参加して行った味覚実験で興味深い結果が出ました。人間の感覚(五感)最大限に使って食品の調査・判定をする”官能検査“という味覚実験です。
天然の明石鯛と養殖鯛、それぞれしめてから食べるまでの時間を24時間前、10時間前、5時間前、2時間半前、直前の5段階で準備し、計10種類を比較するというもの。
それらを食べ比べて「どの状態の鯛の刺身が一番おいしいのか」の統計をとったところ『年齢、性別に関わらず10時間前にしめた天然鯛を最もおいしいと感じる』という明確な結果が出ました【グラフ1】。 さらに、その実験のすぐ後で、同じ10種類の身を科学的に測定したところ『10時間前にしめた鯛はグルタミン酸濃度(うまみ成分)が他のものに比べ突出して高い』ということがわかりました【グラフ2】。まさに明石鯛が1年で最もおいしい時期の実験結果です。天然鯛の究極のうまみを味わうなら、活けじめ10時間後に食べるのがポイント、ということがわかります。
養殖鯛の利点
養殖鯛の利点 天然魚の供給が天候など自然環境に大きく左右されるのに対し、1年中一定の味と値段を保ち、安定供給できるのが養殖魚の良さ。例えば慶事で鯛の姿焼きが大量に必要というような場合、天然で同じ大きさの鯛を必ずその日に揃えるのは難しいが、養殖鯛なら可能。また、養殖鯛は常に脂がのっているので焼いたときにぱさつかず、やわらかく焼き上がる。


資料提供:ダッシュ明石

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